My house, my rules !

徒然なるままに

愛しのウェンディー・ホルコム 早世の天才 Darling Wendy Holcombe, Sweetheart, Premature death.

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バンジョーの音に心奪われて

PCでの仕事中にヘッドフォンで音楽を聴きながら作業していたら、ある曲のバックで軽快に鳴り響くブルーグラス・スタイルのバンジョーの音に心を奪われました。

バンジョーっていいよな。なんか素朴で、どこか懐かしくて…。

作業の手は自然と止まり、いつのまにか「バンジョー」「ブルーグラス」をyoutubeで検索していました。予想はしていましたが、検索で上がってきた動画は "Foggy Mountain Breakdown" という曲を演奏する個人やバンドのものが目につきました。

 

バンジョーの名曲「Foggy Mountain Breakdown」

"Foggy Mountain Breakdown"は、バンジョーにおけるスリーフィンガー・ピッキング奏法を確立したブルーグラス生みの親であるアール・スクラッグスが作曲した楽曲で、バンジョー弾きなら誰もが必ず演奏する有名なバンジョーインストルメンタル曲です。

この曲を不滅のスタンダードにしたのは世界中で大ヒットしたハリウッド映画「俺たちに明日はない」(原題:Bonnie and Clyde・1967年・ワーナーブラザー)で、有名なカーチェイスシーンに使用されたことによって世に広く知れわたりました。"曲のタイトルは知らないけど、このメロディーは知っている"、という方も多いはずです。現代もTV番組の様々なシーンでBGMとしてしばしば使われています。

「俺たちに明日はない」(原題:Bonnie and Clyde・1967年・ワーナーブラザー)

俺たちに明日はない」(原題:Bonnie and Clyde・1967年・ワーナーブラザー)

 

ウェンディーホルコムとの出会い

ブルーグラスの本場であるアメリカのバンドの素晴らしい演奏でFoggy Mountain Breakdownを聴きたいと思い、検索を続けました。たくさんのカントリーウェスタンバンドのサムネイルが並ぶ中で、一枚の奇妙な写真に目が留まりました。

それは、"BABYMETAL"のようなツインテールのヘアスタイルに紫色のリボンを結んだ、金髪の小さな女の子がバンジョーを抱えたサムネイルでした。

「この子供が演奏するの?」

Wendy Holcombe,

Wendy Holcombe, "Nashville On The Road" 1975

その動画は、"Nashville On The Road" という1975年から1981年にかけて放映されたテレビ番組からのものでした。アラバマ州の"アラバスター"という田舎町出身の少女が、番組司会者の招きによりステージに登場しました。女の子の年齢は12歳。彼女は司会者からウェンディー・ホルコム(Wendy Holcombe)と紹介されました。これが、私がウェンディーホルコムを初めて知るきっかけでした。

天才少女、現る

陽気で賢く社交的で饒舌な南部訛りの女の子は、少女が成長期に入ったときに見せる特別な雰囲気を漂わせていました。彼女は、子供から大人へ変化する過渡期に入る直前でした。高く伸びた身長。長くて細い腕と足。そのせいで子供っぽい洋服がどことなく不釣り合いでした。


彼女はサイレン・ホイッスルを"プイ~"と吹いて、ゆったりとしたピッチでFoggy Mountain Breakdownを演奏し始めました。彼女は会場の観客に笑顔を向けて、リズムに合わせて体を大きく動かしながら、見事にバンジョーを弾いてみせました。

Wendy Holcombe,

Wendy Holcombe, "Nashville On The Road" 1975


演奏時間はたった1分間でした。しかしながらその才能を疑う余地はありませんでした。彼女が父親から手ほどきを受けてバンジョーを弾き始めたのが11歳の時。ウェンディーはわずか1年でこの弦楽器をマスターし、天才バンジョープレーヤーとなって、この世に突如として登場したのです。

どのような世界にも、常に天才的な子供が存在するものですが、ウェンディーホルコムもまさにその中の一人、天才少女でした。

衝撃の事実。天才少女は23歳で…。

1975年に12歳だと、現在彼女は56歳になっているはず。さっそくウェンディーホルコムについていろいろと調べてみようと思い、まず手始めにwikipediaを覗いてみました。すると初っ端から衝撃的な事実が判明しました。

驚くことにウェンディーは23歳という若さで1987年に他界していたのです。

https://en.wikipedia.org/wiki/Wendy_Holcombe


Wendy Lou Holcombe
April 19, 1963 - February 14, 1987.

ウェンディー・ルー・ホルコム
1963年4月19日生まれ、1987年2月14日死亡
死因は先天性心疾患ということでした。

この素晴らしいバンジョープレーヤーは、1970年代に天才少女として人気を博し、ショービズの世界へ足を踏み出します。彼女はその短い活動期間中、多方面で活躍し足跡を残しました。デビュー間もない70年代後半、彼女はディズニーの"The New Mickey Mouse Club" や "Kids are People Too"といったロー&ミドルティーン世代向けのテレビ番組へ出演しました。また、先述のカントリー音楽のTVショー "Nashville On The Road"のレギュラーでした。

Wendy Holcombe (1977)

Wendy Holcombe (1977)

Wendy Holcombe

Wendy Holcombe"On tour"


美しく成長し、ティーンのスターへ

天才少女は、南部地方の由緒正しい価値観と共に育ち、美しく若いスターへと変身しました。彼女の才能はさらに磨きがかかりました。愛らしい端正な顔立ち、高い身長、綺麗なブロンドヘア、いつも陽気で天真爛漫な笑顔。アメリカの古き良き時代を象徴するような若い女性になったウェンディーは、テレビのショーやツアーで南部を中心に多くの人々に愛されました。

1980年代に入ると、ウェンディーは活躍の場を広げ、音楽活動を積極的に行うだけでなく、"Wendy Hooper, US Army"というテレビドラマや、"Lewis & Clark"というシットコムに女優として出演もしました。

Wendy Holcombe (1980)

Wendy Holcombe (1980)

Wendy Holcombe (1980)

Wendy Holcombe (1980)


あふれる才能は短い活動期間に集約された

ウェンディーの芸能活動は1975年から1983年頃までで、とても短く10年にも満たない期間でした。彼女は10代中頃から二十歳にかけてプライム期を迎えます。音楽面での天賦の才は留まることを知らず、バンジョーだけでなく、スチールギターフィドル(バイオリン)、エレキギターを習得し演奏することができました。ウェンディーは数多くのテレビ番組に出演し、様々なステージで演奏を披露しました。

Wendy Holcombe (1980)

Wendy Holcombe (1980)

Wendy Holcombe (1981)

Wendy Holcombe (1981)


彼女は1983年に、ブルーグラスの名人達や、有名なエンターテイナーのペリーコモとの海外ツアーをこなします。しかしこのツアーを最後に、彼女はショービズの表舞台からフェードアウトします。

ウェンディーは幼少期から心臓の問題があると診断されていました。80年代中頃には、彼女は健康問題を理由に静養し、芸能活動を停止しました。ウェンディは1983年のツアー後にフロリダ、ノースカロライナ、再びフロリダへと移住しました。

Wendy Holcombe (1983)

Wendy Holcombe (1983)


そしてついにウェンディーは1987年2月の聖バレンタインデーの日に天国へと旅立ちます。

 

ウェンディーと日本の接点

アメリカの南部出身で、1970年代後半から80年代初頭にかけての短い期間、カントリーミュージック界を中心に活躍したウェンディーホルコム。その当時、彼女のことを知る日本人は少なかったと思います。

しかしウェンディーはプライベートにおいて、日本と接点がありました。実は、ウェンディーは早くに結婚をしていました。彼女の結婚相手はツアーを一緒に回る自分のバンドの "Tom Blosser" (トム・ブロッサー)という名のベースプレーヤーでした。

Tomの本名はThomas Yoshiro Blosserといいます。
旦那さんの旧名は「すどうよしろう」さんといいました。
なんとウェンディーは日本人と結婚していたのです。

 

Tom Blosser (Thomas Yoshiro Blosser) 日本人との結婚

すどう-よしろうさんは北海道の室蘭出身の日本人で1951年11月3日生まれ。よしろうさんは、ご家庭の事情で、キリスト教「メノナイト」の宣教師として日本の北海道で布教活動していたEugene Edward Blosser(ユージン・エドワード・ブロッサー、1917–2008)というアイオワ州(Iowa)出身の米国男性に、養子として引き取られました。

ユージン・エドワード・ブロッサー氏は1953年に来日。北海道の大樹町(広尾郡)や札幌市などでキリスト教を布教をしたり、教会を建てるなどの活動に従事していました。ブロッサー氏は自分の息子に兄弟がいたほうが良いと考え、養子を探していました。彼は室蘭の児童養護施設に相応しい幼い男の子がいるとの連絡を受け、よしろうさんと面会して、彼を養子にすることにしました。

幼いよしろうさんはブロッサー氏の息子となり、Thomas Yoshiro Blosserとして帰化してアメリカ国籍を取得しました。ブロッサー氏はその後もしばらく日本で活動し、よしろうさんは養父のブロッサー氏が設立した札幌のインターナショナルスクールへ進み、楽器の演奏なども学んだようです。その後、よしろうさんは米国カンザス州のヘストンカレッジへ短期間留学し、そのままアメリカ国内に留まり、ミュージシャンとして活動を開始しました。よしろうさんは1980年にウェンディーと出会います。ウェンディーはまだ17歳でした。

ふたりは程なくして恋に落ち結婚しました。ふたりは仕事を共にしていました。ウェンディーが仕事から退いた1983年以降、ウェンディーとよしろうさんは、フロリダやノースカロライナにおいて、人生の中で短くも充実した幸せな期間を仲良く過ごしたようです。

異彩を放つウェンディーの魅力

何気ないきっかけからバンジョーを聴こうと始まったネットサーフィンで、微に入り細を穿つまでウェンディー・ホルコムについて詳しく調べることになりました。

Wendy Holcombe

Wendy Holcombe

なぜ彼女の動画が私の心の中の琴線に触れたのでしょうか。それは彼女が他の演奏者と全く違って異質だからでした。バンジョーを演奏するたいていのプレーヤーは無表情で、体を揺らしたり動かすことはありません。もしかしたらそれがバンジョーの美学の1つなのかもしれません。確かにカントリーウエスタンの音楽家は、ロック・ポップミュージックのアーティストたちのような過剰なアピールはしません。

しかし彼女のやり方は違っていました。ウェンディーはいつも愛想のいい笑顔を振りまいて、声をあげ、体を使って踊るようにリズムを取り、バンジョーを楽しんで弾きました。まるでChuck Berryが "You Can't Catch Me"を演奏するように。

私は今回たくさんのバンジョーの動画を見ましたが、ウェンディーだけが異彩を放っていました。彼女は誰よりも躍動感があり、誰よりも演奏を楽しんでいました。


早世の天才。色褪せることのない輝き。

彼女が早くにこの世を去ってしまったのは大変残念です。
しかしそのことが彼女の若さを永遠に止めています。
彼女は決して歳を取ることなく、若さに満ちた魅力を動画や写真の中で、今も放ち続けています。

古き良きアメリカ南部の文化を体現するウェンディーは、今もそのノスタルジックな魅力を余すところなく現代に伝えてくれています。

RIP Darling Wendy Holcombe, Sweetheart.


追伸
ウェンディーホルコムのご家族・親族は今もアラバマ州アラバスターに暮らしています。彼らはウェンディーのお父さんが広い敷地の上に建てたレトロな懐かしいカントリースタイルのイベント施設兼結婚式会場 "Lonesome Dove Wedding & Event" を経営されています。

http://Lonesome Dove Wedding & Events LLC



私はウェンディーにとても感謝しています。なぜなら、私は彼女がエレキギターを弾く動画によって、素晴らしい曲を知ることができました。また彼女は、その曲の作曲者の感動的なバックストーリーへ、私をいざなってくれました。

私はウェンディーによって「Freight Train」を見つけることができました。そしてElizabeth Cottenのことを知りました。Joan Baez、PP&M、Chet Atkins、Peter&Gordon、Jerry Garciaがこの曲をカバーしたことを知りました。また、ジョンレノンがThe Quarrymenのメンバーだった1950年代にこの曲を歌っていたことを知りました。1991年のアンブラグド・ライブのリハーサルで、ポールマッカートニーがこの曲を披露したことも知りました。

Wendy Holcombe (1977) plays Freight Train

Wendy Holcombe (1977) plays "Freight Train"



ウェンディー・ホルコムの演奏


Wendy Holcombe - Foggy Mountain Breakdown


Wendy Holcombe - Dear Old Dixie


Big Blue Marble - Wendy Holcombe 1977


Wendy Holcombe - Catfish John & Freight Train


Wendy Holcombe - Whoa Mule


Wendy Holcombe - Ole Slewfoot


Wendy Holcombe & Eddie Rabbitt - Instrumental (1980)


Wendy Holcomb - Steel Guitar Rag


BUCK TRENT and WENDY HOLCOMBE - DUELING BANJOS / FOGGY MOUNTAIN BREAKDOWN


Wendy Holcombe - Foggy Mountain Breakdown


もう1つ、バンジョーのネタ。Bluegrass 45 / Sab Watanabe

「Foggy Mountain Breakdown」をyoutubeで検索すると、この曲を書いたアール・スクラッグス氏と、たくさんのバンジョープレーヤーたちが一堂に会して曲を演奏する動画がすぐに見つかります。その動画は1971年に開催された音楽フェスティバルの様子を録画したもので、再生回数も800万回近くに達しています。私は詳しくはわからないけれど、彼らもまたスクラッグス氏のフォロワーであり著名なバンジョープレーヤー達なのでしょう。

動画を再生してみると曲の途中で、真っ黒に日焼けした長髪のバンジョー弾きが現れます。中南米の人のような、あるいはインディアン民族のような…。白人ばかりの演奏家たちの中で、そのバンジョー弾きは一人だけ人種が違い、ひときわ目立っています。よく見ると、顔の各部や表情は東アジア地域の人に見えます。いったい彼はどこの国の出身なんだろう。

1971年当時、若者が海外へ自由に出国しアメリカで音楽活動ができる東アジア地域の国はたった1か国しかありません。とても彼のことが気になります。コメント欄から情報を探っていると、プレーヤー達の名前が演奏順に書いてある投稿がありました。

"Sab Watanabe"。

やっぱり。彼は日本人でした。

Sub Watanabe

Bluegrass45の渡辺三郎さん(本名:井上三郎さん)


映っていたのは"ブルーグラス45"とうブルーグラス・バンドの渡辺三郎さん(本名:井上三郎さん)というバンジョープレーヤーでした。ブルーグラス45は1967年頃に神戸で結成された日本ブルーグラスミュージック界の草分け的存在で、1971年に本場アメリカに進出し、ツアーを行い、各地で演奏を披露したようです。

当時の彼らのステージの様子はyoutubeの動画で見ることができます。1971年に、このような素晴らしいブルーグラスのバンドがいたことと、ブルーグラス45のアクロバティックな演奏に、とても驚きました。

"Sab Watanabe"こと井上三郎さんは、現在も音楽活動を続けておられ、日本で唯一の月刊ブルーグラス雑誌「ムーンシャイナー」の編集長でもあるほか、1972年から現在まで半世紀近く続いている野外のブルーグラスフェスティバル「宝塚ブルーグラス・フェス」を主催されています。また井上さんが所属するブルーグラス45は、2017年に結成50周年のステージを行っています。井上さんはご家族でブルーグラスのファミリーバンドとしても活動しておられるようです。いや~、このような方がいらっしゃると全く知りませんでした。

何の気なしにバンジョーについて検索したところ、今回はいろいろな発見がありました。人生はいくつになっても勉強です。

それでは、最後にもう一度この曲をどうぞ!


Foggy Mountain Breakdown - Earl Scruggs

 

追悼
ブルーグラスのレジェンド・渡辺(井上)三郎さんが2019年11月22日、癌のためお亡くなりになったそうです。この記事をアップしてからおよそ1週間後のことでした。享年69歳。ウェンディーホルコム程ではないにせよ、あまりにも早い死であり、ブルーグラス界にとっても大変大きな損失で、残念で仕方ありません。心よりご冥福をお祈り申し上げます。(2019年12月・追記)

京都有次 カタログと価格表 (定価) から探るお勧め品<その2> 鍋編 Kyoto Aritsugu Copper pots

京都有次で庖丁と並ぶ人気の調理道具が打ち出しの鍋

京都有次では包丁と並ぶ人気の打ち出しの銅鍋


京都の老舗「有次」のお勧めの鍋を探ります。


450余年の歴史を誇り、和包丁の世界においてゆるぎないブランド力を持つ有次ですが、包丁と共に人気の高い商品がハンドメイドによる打ち出しの「鍋」です。有次では和食料理に欠かせない鍋類が各種揃っています。

 ※お勧め品 <その1>「包丁編」はこちら ↓

efficientdynamics.hatenablog.com

カタログと価格表(定価)

有次では、つづら折りのカラー印刷カタログと、普通OA紙にプリントアウトした価格表を無料で送ってくれます。価格表には詳しい商品ラインナップと価格・サイズが記されています。商品購入は京都錦市場の店舗のほか、電話やFAXでの通販対応もしてくれます。

カタログ記載のレギュラー商品の他に、店舗向けの特注品や別注品など、プロユースのオリジナルも製作しており、全国各地の有名店から指名も多く、そのことが有次のブランド力をさらに高めています。

有次のカタログ 封筒に入る折りたたみサイズ 価格表も送ってくれる

有次のカタログ 2018年版 封筒に入る折りたたみサイズ 価格表も送ってくれる

京都有次の鍋の価格表 銅鍋・アルミ鍋などの材質が主流

京都有次の鍋の価格表 2018年版 銅鍋・アルミ鍋などの材質が主流

京都の有次 ひきひら鍋、段付鍋、おでん鍋、両手鍋、フライパン、木蓋etc

京都の有次 ひきひら鍋、段付鍋、おでん鍋、両手鍋、フライパン、木蓋etc


有次の鍋の特徴

有次の鍋類は職人の打ち出しによる手作りで製造されています。金属の板材を切断・折り曲げ・接合加工などで成型して、鍋肌を金槌でコツコツと叩いて1つ1つ丁寧に作られています。鎚目と呼ばれる綺麗な凹凸の金属肌が特徴で、キラキラと輝くような外観が大変美しい仕上がりになっています。工業製品のように大量生産できないため、販売価格はややお高くなりますが、1つとして同じものがない、完全にオンリーワンの存在ともいえます。

打ち出し(鎚目加工)による「加工硬化」

手打ち鍋の材質には主として銅やアルミが使われます。これらの金属は熱伝導率が良いため、料理をするには最適な素材なのですが、比較的柔らかく変形しやすい金属でもあります。そのため鎚目加工で作ることで本体の強度を高めています。金属は金槌で叩いくことで硬くしまります。これを金属の「加工硬化」と呼びます。

金属は高温加熱する「焼きなまし」という熱処理をすると、歪んでいる組織が再結晶化・均質化して軟化します。材料を柔らかく軟化させることで、曲げたり叩いたりする加工が楽になります。焼きなましを行って加工しやすくなった材料を成型して、金槌で叩いて絞めることで、金属組織が再び歪み、結果として硬く締まった強度のある鍋が出来上がります。

 

鍋の材質は、銅、真鍮、アルミの3つ

有次の打ち出し鍋で使われる材質は、銅、真鍮、アルミの3つ。
特徴は以下の通りです。

・アルミは安価で軽く熱伝導率が良い。ただし腐食や変色しやすい。
・銅は高価で最も熱伝導率が良い。変色はするがお酢と塩で簡単に戻る。
・真鍮は熱伝導率が劣る半面、耐食性に優れ変色しにくい。黄金色に近く美しい。

プロのように仕上がり拘る人は銅鍋、おもてなし等の見映え重視なら真鍮鍋、コスパ優先の普段使いならアルミ鍋、といった住み分けになるかと思います。銅と真鍮は素材価格が高いので価格もかなり高額になります。

 

お勧めの鍋はどれ? 

有次でお勧めの鍋は、やはり熱伝導率に優れる銅製の鍋です。その中でも以下の3つは、どんな家庭でも1つあると便利で、特にお勧めの品です。

・銅 ゆきひら鍋 15cm 16,740円
・銅 ゆきひら鍋 18cm 21,060円
・銅 うどん鍋 26cm 29,700円

京都有次 銅ゆきひら鍋 15cm / 落とし蓋用の木蓋が安価で揃う

京都有次 銅ゆきひら鍋 15cm / 落とし蓋用の木蓋が安価で揃う


銅 ゆきひら鍋
鎚目の美しい片手鍋です。本体の板厚はノギス計測で実寸1~1.2mm前後。とても薄い作りです。熱伝導率に優れた銅+薄い板厚のおかけで、驚くほど早く水を沸騰させることができます。短時間で素早く加熱し、短い時間内に食材の芯まで火を通すことで形崩れ・煮崩れしない調理スタイルを良しとする和食の煮物には、最適の手鍋です。内側は錫引き加工。錫は酸化や腐食に強く、毒性が低く、人体に殆ど影響のない安全な金属です。食材を選ばず、醤油や塩や酢を多用する和食の調理にも向く金属です。

有次のゆきひら鍋の特徴は2つ。1つ目は大きく尖ったカラスぐち。独特の形状をしていますので、このカタチを見ただけで「これは有次だね」とすぐに分かります。もう1つの特徴は深さのある形状です。他社の製品よりかなり深くボリューム感があります。

銅ゆひきらで、一番のお勧めはずばり15cm径サイズ。高さは7cmあります。お湯やミルクを沸かしたり、付け合せの野菜や玉子を3~4個茹でたりと、ほぼ毎日のようにキッチンで活躍してくれます。御みそ汁作りなら3杯位は十分に対応します。とにかく出番が多く、試しに買ったとしても絶対に後悔することのない鍋です。

一緒にお勧めしたいのが、汎用性の高い18cm径サイズです。こちらも揃えておけば大変便利です。高さは9.5cmもあり、他社と比較してもかなり深い作りになっています。肉じゃがなら2~3人前作れるサイズ感です。うどん・そば・ラーメンなど麺類を1~2人分を茹でるのに最適なサイズです。

大きなカラス口と深い形状が特徴。有次の銅ゆきひら鍋。

大きなカラス口と深い形状が特徴。有次の銅ゆきひら鍋。

木柄が付いた「ゆきひら鍋」の真髄は、そのコンパクトな手軽さにあります。よって、一般家庭では大きなサイズのゆきひらは不要です。20cmクラスからは柄も結構大きく長くなるため、取り回しが悪く感じたりします。大量に調理したい場合は、素直に容量の大きな両手タイプの段付鍋を選ぶと良いでしょう。

有次の銅段付き鍋

有次の銅・段付鍋/7寸21cm 大きなサイズなら両手鍋が便利


銅 うどん鍋
有次の中で割と馴染みのある鍋が「銅うどん鍋」。この鍋を卓上で使用する料理屋さんも散見され、有次を知らなくても見たことのある方が少なくないかと思います。元々はうどんすき鍋として作られている口が広くて浅い卓上用の専用鍋ですが、寄せ鍋やしゃぶしゃぶ鍋としても利用でき、冬場はこれ1つあるとかなり重宝する鍋です。

26cmサイズはカセットコンロにもフィットし、卓上でも邪魔になることがありません。とても使い勝手が良く、2~3人前を目安としている大きさです。4、5人一緒で食事するなら1つ上の30cmサイズが良いでしょう。

京都有次 銅製のうどん鍋 26cm / うどんすき、しゃぶしゃぶ鍋としても流用できる

京都有次 銅製のうどん鍋 26cm / うどんすき、しゃぶしゃぶ鍋としても流用できる



特別なお祝いごとがあれば、揃えてみたい特別な鍋

手打ちの銅製鍋はとても高額です。その中でも特に高額な商品の中から、結婚祝いとか、7年目の銅婚式とか、新築祝いなど、特別なタイミングに、お祝い物として揃えてみたい(おねだりしてみたい)お勧め鍋を追加で2つほど紹介しておきます。

・銅 おでん鍋 
・銅 釜飯セット(銅羽釜)  

おでん鍋
プロの料理人や料理好きな女性にとっては名立たる調理道具の老舗も、世間一般の男性諸氏にしてみれば「何ソレ、ゆうじ(有次)って読むの?」程度の話であり、馴染みの薄い存在でしかありません。そんな一般の男性陣にも有次の存在を多少は知らしめたのが、人気グルメ漫画美味しんぼ」への登場でした。美味しんぼで有次を知ったという方も少なからずいるかと思います。

とあるエピソードで、主人公の新聞記者・山岡士郎が、フレンチの修行をしたいというおでん屋の跡取りを連れて京都に出向き、有次の紹介でおでん鍋を作る職人の工場を訪ね、そこで見た職人技に感服して、いろいろと勉強・改心する的な内容です。 

この話中に、有次の御主人と鍋づくり名人の方が登場します。その名人は井上忠吾さんという職人さんです。漫画の中では、実際に井上さんが銅おでん鍋を作る工程が分かりやすく描かれています。有次の古いカタログ冊子の中にも、そのお名前を確認することができます。

作品が描かれた時代、1980年代~から2000年代中頃にかけて、銅の価格は現在ほど高騰していませんでした。現在から見ると信じがたい贅沢なのですが、なんと3mm厚もある銅板を使って「おでん鍋」を叩いて打ち出している描写が作中に出てきます。銅で3mm厚といえば、世界中から羨望のまなざしを集めるフレンチ銅鍋の名門「ムヴィエール」や「マトファーブウジャ」の中でも、コレクター垂涎となる古いビンテージ級に使われているものぐらいです。そのような厚板をハンドメイドで手打ちするともなれば、お値段が張るのも仕方ありません。井上さんは、ゆきひら鍋、段付鍋、寸胴鍋など有次の鍋の多くを手がけていたようです。

銅価格の推移(1980~2019年) LME(ロンドン金属取引所)での先物清算値

銅価格の推移(1980~2019年) LME(ロンドン金属取引所)での先物清算


以前、大手酒造メーカー「月桂冠」のテレビCMにも、有次のおでん鍋が使われていました。その強烈な存在感ゆえ、すぐ気が付いた方も多いと思います。人気漫画やTVCMなどに登場する話題性も手伝って、有次の鍋の中でも知名度が高いのが銅製のおでん鍋です。高級おでん鍋といえば有次、といった感じでアイコン化されている感もあります。

月桂冠「つき」TV-CM 出演:永作博美  有次のおでん鍋

月桂冠「つき」TV-CM 出演:永作博美  有次のおでん鍋

というわけで、寒い時期しか使わない専用の鍋を紹介しました。専用鍋ですから使用頻度も低く、コスパは最悪となってしまいますが、ご予算が許すようなら1つ揃えてみたいですね。お値段は24cm角サイズの場合、10万円で少しおつりが来ますよ!(苦笑)。以前は6万円程度で買えましたが、銅の高騰でどんどん値上げされて、今や普通の方は購入できないような金額になっています。銅の板厚も美味しんぼで描かれたような3mm厚ではなく、やや薄いと思います。

銅おでん鍋
 中 24cm角 94,824円 
 小 21cm角 88,128円   CMで使われているのはこの小サイズかな?


美味しんぼの作品発表から30年ほど経過しており、当時の職人さんだった井上さんも年齢的には既に故人となられているかと想像しています。有次で以前「鍋を作る職人の方が亡くなったため」云々、職人さんが変わって作りも微妙に変わっているという類の話を聞いたことがあります。おでん鍋は取っ手の作りが昔と今では少々違いますのでわかり易いです。
包丁の沖芝さん、鍋の井上さん・寺地さんら、当時の名人たちとその素晴らしい技が、今の有次の名声を不動のものにしたと思います。


釜飯セット(銅の羽釜)
もう1つ、10万円近い高額商品ではありますが、特別な機会に予算が許す方にお勧めしたいのが、銅の羽釜です。「釜飯セット」という名前でカタログに記載されています。かなり高額の商品ではありますが「おでん鍋」とは違い、ご飯を炊くための鍋ですから、ほぼ毎日のように使えます。したがってコスパは極めて高く、元は取れる?的な鍋ではあるかと思います。電気炊飯器と違って壊れることはほぼ無いので、内側の錫を引き直して使い続けるなら、捨てない限り使い続けられると思います。

有次のブランドに価値を見いだせるなら検討しても良いかと思います。もし気に入れば一生モノのお鍋となるでしょう(以前は、釜本体、木蓋、受け台を個別に購入できましたが、今は分かりません)。お釜だけなら2~3万円安かったと記憶しています。

sumally.com


包丁にしろ、銅鍋にしろ、原材料価格の高騰でドンドン値段が上がっています。買える時に買っておくのが得策です。おでん鍋にしろ羽釜にしろ、手入れしていれば30年~40年、あるいはそれ以上の長いスパンで使い続けることができます。大切に使えば自分の子供に引き継ぐこともできますので、一考に値します。


アルミ鍋や真鍮鍋はどうなの?

今回、お勧めの鍋は全て銅製の鍋を選びました。用途・使い勝手・性能面で総合的に判断しました。アルミ鍋、真鍮鍋は、用途によって向き不向きが顕著でなので、何に使うかよく考えてから選ぶと良いでしょう。

真鍮製の鍋は、どちらかといえば商用の「見せ鍋」用です。その黄金色の美しさと変色の少なさから、店舗でのテーブルサービスや演出が主たる用途になります。実用品としては銅やアルミほど熱伝導率が良くないことから、家庭での普段使いとしてはお勧めしません。店舗もしくは来客用に向く材質です。

アルミ鍋は、安くて軽くて錆びず熱伝導率も良いので、多くの家庭で使われています。野菜を茹でるなど、ちょっとした煮炊きには手軽でとても便利です。ただアルカリと酸の両方に弱く腐食(溶け出したり、終いには穴が開いたり)するため、PHの偏った食材を長時間調理することには向きません。またゆで卵を作ると殻とアルミが化学変化を起こし黒くなってしまいます。どうしても食材や調理時間は選びます。

銅鍋は高額であるという大きなネックはありますが、性能的にも料理の仕上がり的にも美的にも優れ、しかも安心して使えます。高くても良いものを買って大切に長く使うことが一番安上がりですから、奮発してぜひ銅製の鍋を購入してみてください。開眼間違いなしです。

追伸
銅鍋の内側は「錫引き」になっています。錫は230度で溶けてしまいます。揚げ料理や焼き料理では200~210度を目安に、それ以上高温にならないようにしましょう。



京都有次 カタログと価格表 (定価) から探るお勧め品<その1> 包丁編 Kyoto Aritsugu knifes

京都有次の包丁

京都の老舗「有次」の包丁

有次では鍋から菜箸まで大小様々な料理道具が揃う

鍋から菜箸まで大小様々な料理道具が揃う


京都の老舗「有次」のお勧めの包丁を探ります。


創業450余年の老舗 包丁・料理道具店

京都有次(ありつぐ)は創業以来450余年の歴史を誇る老舗料理道具屋さん。包丁の世界では「西の有次、東の正本(総本店)」との言葉が広く浸透するなど、大変有名な包丁屋さんです。

戦国時代の永禄3年(1560)に刃物鍛冶・藤原有次によって興り、江戸時代には京都御所(以前の皇居)の御用鍛冶として出入りを許され、明治以降は料理包丁を中心とした刃物屋および料理道具屋へと転じて今日に至ります。

※--※--※--
幕末から明治にかけての争乱期、その舞台となった京都や周辺地区では武器となる日本刀の需要が一気に高まり、腕の良い刀(かたな)鍛冶が全国から多く集まってきたと言われています。明治維新以後、
太平の世となると廃刀令とともに仕事が無くなった刀鍛冶たちの中から、日本刀を作る手法を用いて包丁鍛冶へと転じ、日本刀のような素晴らしい切れ味を誇る包丁を作るものが現れました。有次はそのような鍛冶屋とのつながりで高品質な
包丁を扱うこととなり、その包丁が評判となって名声を得て有名になっていくという背景があったようです。ちなみに現在の有次は刃物の鍛冶は行っていません。和包丁の多くは大阪・堺の職人さんたちによってOEM生産されています。
※--※--※--

強固なブランド力で垂涎の的

有次が販売する製品は、和包丁や手打ち鍋など職人によるハンドメイドの商品が多く、大量生産・大量販売とは一線を画すビジネススタイルを取っています。オンラインモール、ネット販売全盛の時代に、店舗販売重視という昔ながらの商いスタイルを守っています。それがかえって老舗らしさを際立たせ、人気に拍車をかけています。

長い歴史を背景とした老舗の信頼とブランド力、各種メディア等にしばしば取り上げられる抜群の知名度も相まって、プロの調理師から料理好きの主婦まで幅広く愛され、和食の料理道具が好きな方にとっては、キッチンに揃えたい垂涎のアイテムと化しています。
 

店舗は京都錦市場の本店のみ

有次の店舗は1980年代に移転-開設した京都錦市場本店のみ。あとは百貨店の阪急梅田に販売コーナーがあるだけです。かつては都内の百貨店にもコーナーがあり、池袋西武や、数年前まで東京の日本橋高島屋にも出店していました。残念ながら現在は撤退してしまい、現在関東に拠点はありません。10年ほど前には公開していたウェブサイトも現在は閉鎖しており、公式サイトやオンラインショップの類も有りません(※高島屋オンラインショップで洋包丁の一部が購入可)。

店舗には和包丁や銅鍋など高価な商品がずらりと並びますが、安価なアイテムも多数あります。有名料理店から一般家庭まで、京都という街の「食」を支える一役を担っています。

錦市場にある京都有次の本店

錦市場にある有次本店

電話やFAXで注文、着払い配送の通販が可能

ネット全盛のご時世に、ウェブサイトもオンラインショップもありません。気軽にAmazonでポチることもできません。そのため有次の商品入手はややハードルが高いのです。が……。

実は電話で頼むとカタログと価格表を郵送してくれ、それを元に電話やFAX等で注文を受けてくれます。アナログ的ではありますが、着払いで製品を送ってくれます。遠方の方でも購入できますので、なかなか心強いです。

ただし注意しなければならないポイントが2つあります。
包丁は、実際に手にした時に感じる重さ・バランス・手の馴染み具合などの感触がとても大切ですから、直接お店を訪れての購入をお勧めします。ちなみに人気のあるお店なので、いつも商品の在庫があるという訳ではありません。品切れ・品薄で半年以上待って購入するような包丁も少なくありません。お目当ての包丁が決まっているなら、事前にしっかり在庫を確認してからお店に訪れる必要があります。


カタログと価格表

有次は、つづら折りのカラー印刷カタログと、エクセルの表シートをプリントアウトしたような価格表を無料で送ってくれます。カタログには主だった商品がずらりと掲載されており目移りします。それでも全体の一部でしかありません。型抜き・物相など小道具など掲載しきれないほど沢山の商品があります。価格表の方には、より詳しく商品のラインナップと価格・サイズが記されています。そちらも参考にして商品を選ぶと良いでしょう。

有次のカタログ 価格表も送ってくれる

有次のカタログ 封筒に入る折りたたみサイズ 価格表も送ってくれる

京都の老舗、有次の包丁は、価格表でサイズや定価を確認できます。

京都の老舗、有次の包丁は、価格表でサイズや定価を確認できます。

京都有次の包丁価格表 2018年版 シンプルで値段も分かりやすい。

京都有次の包丁価格表 2018年版 シンプルで値段も分かりやすい。

※定価は変動しますので最新の価格表を取り寄せてご確認ください。

和包丁の刃渡りの測り方は2通り。イラスト付きで親切に掲載してくれています。

和包丁の刃渡りの測り方は2通り。イラスト付きで親切に掲載してくれています。


和包丁のグレードにつて

有次の和包丁のグレードは以下のようになっています。


真鍛(純日本鋼) 本焼 全身が刃物鋼のみで鍛造(カタログ・価格表は未掲載)
上製 霞包丁 鋼材:青紙2号 刃物鋼と軟鉄の2種類を鍛接した合わせ包丁 
特製 霞包丁 鋼材:白紙2号 同上。白紙鋼を利用。 
登録 霞包丁 鋼材:白紙2号 同上。

 
有次の和包丁は大別すると4つのグレードがあります。
最上級は本焼き包丁。全身が高級刃物用の炭素鋼1枚だけで鍛造された包丁です。プロの板前さん達が使う製品です。価格も極めて高価なため特別扱い。カタログや価格表に記載はありません。ただし京都の店舗では柳刃や薄刃などの本焼き包丁がずらりと並んでいます。

一般の方が使う製品群の中では「上製」が一番良いグレードとなります。鋼材は日立金属の高級刃物鋼「青紙」を利用しています。次に「特製」と呼ばれる中間のグレードがあります。同じく日立金属の高級刃物鋼「白紙」と呼ばれれる刃物鋼材を使っています。一番下の「登録」はどちらかと言えば家庭向けグレードの位置付けですが、普通の方ならこれでも十分すぎるぐらい良い包丁です。なぜなら登録は特製と同じ鋼材の「白紙」を使用しているからで、実は一番お得なグレードです。
ちなみに上製と特製は本職のプロが遜色なく使うレベルの品質です。

有次の上製柳刃。日立金属の安来鋼「青紙2号」を使った霞の刺身包丁

上製の柳刃。日立金属の安来鋼「青紙2号」を使った霞の刺身包丁


和包丁の鋼材について

有次の和包丁は基本的に日立金属の刃物鋼である安来鋼「青紙」と「白紙」が使われています。白と青の違いは含有する成分の違いです。白紙は所謂「鋼(はがね)」で高品質な刃物用の炭素鋼です。その白紙の成分にCr(クロム)とW(タングステン)を添加した合金鋼が青紙です。

白紙 = 炭素鋼
青紙 = 白紙 +クロム +タングステン

クロムとタングステンを添加することで耐摩耗性が上がるため、青紙の方が長切れします(刃持ちが良い・キレが長く続く)。ただし白紙より鋼材価格がやや高価になります。青・白ともに2号鋼・1号鋼の種別があり、2号鋼にC(炭素)を増加させて硬度を高めたものが1号鋼になります。

刃物用炭素鋼の種類

ちなみに青紙の鋼材単価が高いからといって、白紙の食材を切る性能が青紙に劣るということはありません。それどころか逆の感覚すらあります。

白紙は添加物のない純粋な炭素鋼なので、大変砥ぎ易くて直ぐに鋭くて良い刃が付きます。言葉にするのは難しいですが、研ぎがビシッと決まると、食材に噛みつくような感覚でスパッと刃が入り、抜群の切れ味を発揮します。特に白紙一号鋼(白一)の包丁は惚れ惚れれするような切れです。

一方、青紙はややジェントルな感触で、食材を静かに切っていく感覚の切れ味です。キレが長持ちする青紙鋼なので、一度に大量の食材を捌く業務用途や、砥ぐ回数を減らしたい方は青紙を。そうでなければ通常は白紙でよいかと思います 。

砥石を持っていない方、自分で砥げず有料で研ぎ屋さんに出す方は、最終的に青紙の方が安くつくきます。ただしせっかく和包丁買うなら砥石を買って練習して自分で砥げるようになりましょう。刃を当てて引くだけの安物のシャープナーとかご法度です。 

 

有次の真髄は和包丁

有次の人気を不動にしているのは和包丁への評価によるものです。そのため有次の包丁を検討している方は、和包丁の購入を考えている方が多いかと思います。

職人が手作りで火造り鍛造した切れ味抜群の和包丁は、世界中の料理人たちからの賞賛と共に、その名声を欲しいままにしています。世界で最高級に位置し、他国が並ぶことのできない品質を誇る和包丁。せっかく日本に住んでいるわけですから和包丁を使いこなして、その極限ともいうべき切れ味を思う存分楽しみたいところです。

そこで家庭用にお勧めの和包丁を4本選んでみました。和包丁は、食材と使用目的が明確に決まっている専用設計の包丁になります。万能型ではないため使用頻度は少なくなります。したがって家庭用の場合はコスト重視で構いません。

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和包丁は片刃が基本。両刃より鋭利です。


お勧めの和包丁はどれ?

一般家庭で使うおすすめの「和包丁」

・登録 柳刃刺身包丁 8寸(24cm)  17,280円
・登録 出刃5寸(15cm)  14,040円
・特製 アジ切 4寸(12cm)  10,800円
・特製 菜切包丁5寸(15cm) 12,980円


まず1本目は刺身を切る時に使う細長い刺身包丁。
一般家庭のキッチンサイズを考えると、登録・柳刃の8寸か9寸あたりが使いやすい長さになるでしょう。8寸なら狭いキッチンでも無難に扱える長さです。9寸は家庭用の包丁としては少し長く感じるかもしれませんが、カウンタートップ一体型のシステムキッチンなどスペースが十分ある場合は全く問題ないと思います。また腕に自信のない方は9寸の方が刃を長く使えるので逆に楽だったりします。和包丁の扱いに慣れている上手な方は、刃が短くても手際良く刺身を引くことができますので8寸でいいでしょう。8寸なら収納的にも困りません。


続いて2本目は、魚をおろす出刃包丁。
出刃包丁は登録・5寸がお勧めです。刃渡り15cmになります。これがあれば大抵のモノは捌けます。本来なら大・中・小で揃えるものですが、一般家庭では出刃の使用頻度が少ないしコスパが悪く高くついてしまいます。なので汎用性の高い5寸サイズを1本持つのがお勧めです。30-40cm程度の中型の魚から60-70cm前後の大型の魚まで、大半のモノは捌けます。出刃については「小はそこそこ大を兼ねる」ということです。
※カットされた魚しか買わない人は要りません。


3本目のお勧めは刃渡りの短い小さなアジ切包丁。
たとえ丸のままの魚は買わなくとも、ご家庭で秋刀魚やアジなどを買って開いたりすることもあるでしょうから、この4寸サイズのミニ和包丁を1本持っていると便利です。小さな魚は小出刃よりアジ切の方が楽です。ネギやきゅうりを刻んだり包装の袋を開けたりと、万能ペティ的にも使えますので検討してみてはどうでしょうか。

最後の1本は野菜切りの専用、菜切り包丁これが一番のオススメ。
切れ味抜群の和包丁を毎日のように普段使いできます。プロが好んで使う片刃の薄刃包丁を、一般の方でも扱いやすいように改良した両刃の庖丁です。'70年代ぐらいまでは、かなりの割合でこの手の包丁が家庭に1本置いてありました。切っ先が尖がっていない黒打ちの四角いカタチの包丁です。国内でもまだまだ製造されていますし、この形が好きな+使いやすいという人も少なくありません。海外でも「Vegetable Cleaver」というものがありますし、四角い包丁を菜切(Nakiri)、中華包丁(Chinese Cleaver)もこれに属します。

現代は、スーパーマーケットでカット済みの肉や魚をパック製品として買うことが一般化しています。そうなると家庭では、野菜を切ることが包丁の主たる作業となります。つまり野菜を切ることに特化した菜切包丁は、和包丁の中では最も家庭で使用頻度の高い包丁ということになります。

京都 有次 菜切包丁 黒打ち

有次の菜切包丁。特製・5寸サイズ。黒打ちで幅が広くミニ中華包丁のような形


有次の菜切包丁ラインナップ
・上製菜切り 5.5寸 / 5寸 青鋼 磨きタイプ
・特製菜切り 5.5寸 / 5寸 白鋼 黒打ちタイプ
・特製菜切り(薄打ち) 5.5寸 5寸  白鋼 黒打ちタイプ ←お勧め 


有次の菜切包丁は、青紙を使った「上製」と、白紙で黒打ち(包丁の半分が黒い)の「特製」があります。長さは5.5寸と5寸。有次の菜切り包丁は峰から刃先まで厚みが結構あり、硬い根野菜など切るのにもってこいです。黒打ちの特製には「薄打ち」というカタログに掲載されいないタイプもあります。全体が薄く仕上げてあるので、食材をカットした時に抵抗が少なく刃がスッと入り、抜けや切れ味が良く感じます。ニンジンや大根などカットしても食材が途中でバリッと割れにくく最後まで刃が進みます。特に固いものを切らないのでしたら、薄打ちタイプが一番のお勧めです。

和の菜切り包丁というのは通常5.5寸が一般的なサイズです。が、有次の菜切は峰厚があって重量もかなり重いので、バランスや重さの感触的には5寸がしっくりくる方が多いと思います。


もっとディープに浸る和包丁の世界 

たとえ本職のプロでなくとも、海釣りが趣味の方は釣果で何匹も魚を捌きます。公設市場で大きな魚を丸のまま買って頻繁に捌くお魚好きの方もいるでしょう。また技術を磨いて飾り切りとかやりたい人もいるかと思います。そんなハイエンドアマチュアの方も納得のプロ用包丁が有次には沢山あります。

・大根の桂剥き・野菜を極薄に切りたい→ 上製 鎌形薄刃7寸21cm
・お皿の絵柄が見えるような薄造りにしたい→ 上製フグ引き尺寸30cm
・小さな魚を沢山捌く→ 上製 相出刃3.5寸10.5cm
・大きな魚を捌いてついでに刺身まで一気に引きたい→  特製 柳刃出刃8寸24cm
・飾り切りや早切りしたい→ 上製 ムキモノ包丁

時間と費用は掛かりますが、柄を八角にする、サヤを付けるなど、オプション的な要望にもいろいろと応えてくれます。既述のとおり、プロ向けの本焼き包丁などもありますので、腕と使用頻度と予算が許す方は、そちらも検討されるとよいでしょう。
まずはカタログと価格表を取り寄せてみてください。
ディープな有次の和包丁の世界にどっぷり浸ることができます。
その中からきっと必要な包丁が見えてくると思います。


有次の洋包丁について

和包丁で人気を博し評価も高い有次ですが、洋包丁は普段使いに向くオーソドックスな家庭向けの包丁をメインに展開しています。錆びやすい炭素鋼だけで作られた全鋼包丁と、刃材の炭素鋼をステンレス鋼で挟んだ割り込み包丁に大別されます。

全鋼包丁

・上製 炭素鋼製 峰幅が特製より厚く丈夫な作り。製作中止が多い。
・特製 炭素鋼製 一般的な洋包丁で三徳や牛刀や骨スキガラスキ等を多数展開。
・ツバナシ 炭素鋼製 一般的な洋包丁で鍔の無いシンプルな形状。

割り込み包丁
・平常一品 本体はステンレスで刃の部分だけ鋼のサンドイッチ構造。
・和心 同上。朴の木柄が付いた和包丁型と一般的な洋包丁型の2種類あり。
    ※洋包丁型はツバ(鍔)有、ツバ無しのモデルがある


全鋼包丁のグレードは一般的な「ツバナシ」・「特製」・「上製」の3つに分かれます。ただし現在は上製包丁のモデルは製作中止が多くなって殆ど見かけません。上製は全身がやや厚くしっかりした作りです。刃材は国内メーカーから調達した刃物用の炭素鋼が使われています。以前はスウェーデン製(ウッデホルム社)の炭素鋼を使用した商品などもありました。

割り込み包丁は「平常一品」と「和心」の2種類。炭素鋼の刃材を錆びにくいステンレス鋼で両面から挟んだ張り合わせの割り込み包丁です。「和心」には和包丁のような柄が付いた和包丁型と一般的な洋包丁型があります。洋包丁型はツバありとツバなしに分かれています。

刃材に使われる鋼材は、和包丁で用いられている高級刃物鋼ではなく、より安価な鋼材が使われています。洋包丁は牛刀や三徳包丁がメインなので、和包丁のような極限の切れ味を求めるニーズはありません。青紙や白紙のような専用の高級刃物鋼でなくとも砥ぎ易く良い刃が付けば十分ということです。

京都有次の上製三徳牛刀

現在は生産中止の上製洋包丁は峰が厚く頑丈。万能ともいうべき三徳包丁。


お勧めの洋包丁はどれ?

一般家庭で使う「洋包丁」のお勧めはズバリ以下のとおり。

洋包丁
・特製 三徳牛刀18cm 定価 13,500円
・特製 ペティ12cm  定価 8,424円
 (2本セットの組み合わせで揃えましょう)

せっかくなら全鋼包丁を

普段使いの包丁は洋包丁を大小セットで揃えることをお勧めします。洋包丁は現代の食生活にマッチしており、万能で扱いやすく何かと便利。18cmの特製三徳包丁と12cmのペティのセットを選べば間違いありません。手の大きい大柄の女性や男性が使う場合は、牛刀21cmとペティ15cmを検討してみても良いでしょう。

家庭で使うなら錆に強いステンレス製を勧めたいところですが、刃の部分は錆びる炭素鋼なので、管理の手間は大して変わりません。であれば有次の本流である良く切れる全鋼タイプの包丁をお勧めします。

有次・上製三徳牛刀包丁

砥ぎ易く良い刃のつく鋼の包丁がお勧め。


鋼の包丁は、酸化や経年劣化で変色もしますがそれも味わいです。初期の輝きをキープしたい場合は、たまにクレンザーとピカールで磨いてあげればピカピカになります。

日常的に使っている包丁に浮く錆びはたかが知れています。うっかり放置して変色したり錆が浮いたりしても、クレンザーや耐水ペーパーでササッと磨けば簡単に落ちます。サビトールという消しゴム的な便利なものもあります。使ったら洗ってしっかり拭く。メンテナンスはいたって簡単です。

包丁のキレは、鋼材の品質と研ぎと形状の3つが重要です。
有次の包丁は形状がとても良いのが特徴です。
良い鋼材を使ってしっかり砥いでも形が悪いと切れの良さは体感できません。
有次ならではの感触がありますので、ぜひ試して見てください。